スウィート・アラカルト

食後は別腹クレープ!

"あやふやな未来"を、対話(ダイアローグ)しよう ~DIALOGUE+と可能性の話

その動画を初めて見た時の感想は、「ポニキャ気合入ってんな……」だった。

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楽曲制作陣がえらいことになっている、とTLに流れてきた試聴動画。

作詞作曲:田淵智也、編曲:田中秀和。そんな組み合わせアリかよ……と開いたところ「そんじゃ手始めに革命しましょ、ご準備!」「超絶綽綽手を引いてあげましょう!」と田淵節全開の歌詞に、田中さん編曲ならではのおもちゃ箱をひっくり返したような複雑なわちゃわちゃ感。ポニキャのオタク(Sexy Zone*1久保ユリカスタァライト九九組)として、かなり力を入れているグループなのだなと感じた。メンバーについてはナナシスの荒木レナ役である飯塚麻結さんしか知らなかったが、配信が始まった際には早速ダウンロードし、リピートすることとなった。

 

次にリリースされた、ミニアルバム「DREAMY-LOGUE」。

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こちらも収録曲の楽曲制作陣に圧倒された。赤い公園*2パスピエ*3、fhána*4、そして三森すずこさんが作詞で携わっていることに驚いた(パジャマ de パーティー)。こちらのアルバムも早速、ヘビロテプレイリストに加わることとなった。

 

デビュー時から楽曲は聴き続けていたDIALOGUE+。しかし、ライブを見たり各々のメンバーについて掘り下げることはしなかった。この姿勢が変わったのが、DIALOGUE+PARTY 2021「ぼくたちの現在地」である。

1部の全曲パフォーマンス編が気になるな、と目を通していたらまさかの配信チケット1000円。コロナ禍で様々な配信ライブを見ていた私だったが、この価格は破格である。好きな曲だらけなのは間違いないしな、と予定を空けた。

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こうしてDIALOGUE+のパフォーマンスを初めてちゃんと見ることになったのだが、想像以上のクオリティによるフォーメーションダンスが繰り広げられており驚いた。さらに振付のリズムの取り方が気持ち良く、かつポーズがどれも印象深い(「はじめてのかくめい!」の0を作りながら蹴り上げる振付、「夏の花火と君と青」の盆踊りをうまく取り入れた手の動き、「人生イージー?」の+(プラス)を意識した振付など)。1時間で全曲披露するために次々と繰り出されていくパフォーマンスに圧倒されつつ、いつの間にかひとりのメンバーに注目していることに気がついた。すらりと細長い手足。ポイントメイクの映える白い肌に困り眉。聴かせどころでバチっとソロを決める力強い歌声。衣装の示すメンバーカラーを元にWikipediaを探る。

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「さっぴ」こと宮原颯希さんとの出会いである。なんで今まで認識してなかったんだ!?と思うくらいに目を惹かれた。笑顔はもちろん、「Domestic Force!!」で眉を顰める表情にグッとなる。また、DIALOGUE+のエースである内山悠里菜さんとのセンターボーカル曲、「謎解きはキスのあとで」。謎が絡まるラブソングと傘を使ったパフォーマンス、どちらも大好きな私としては最高の楽曲であった。向かい合った二人が傘に隠れ、口づけているかのように見せる振付も堪らない。CD未収録の楽曲*5 であったため、暫く亡霊になってしまった。

そしてライブタイトル「ぼくたちの現在地」に繋がる新曲、「あやふわアスタリスク」。

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これまでとはひと味違う、幻想的で浮遊感のある楽曲。グループに対してカラフルな印象を抱いていたため、黒基調のゴシックなMV衣装もなんだか新鮮で。カノンダンスやサビでの足の捌き方も美しいものであった。楽曲だけではなくパフォーマンスも含めDIALOGUE+に大きな可能性を感じた私は、きちんと活動を追うことに決めた。

 

豊富なDance Practice動画を眺めながら振付師の沢口かなみ先生に感謝を捧げ、メンバーのゆるいテンションのフリートに癒される日々を過ごしていた私だったが、新曲で更に心を奪われることになる。
 4月6日にMV公開された4thシングル、「おもいでしりとり」。

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 「あやふわアスタリスク」と対になるような、白を基調としたノスタルジックなMV衣装。サビで紡がれるセリフとダンスの"しりとり"。大変かわいい、推しの三つ編みおさげと「好きです。」。素敵尽くしの中で、一番胸を打ったのはその歌詞であった。

あっちを立てりゃきっと こっちが立たない
フラフラ迷い込んで結局 臆病で意地っ張りだ
おもいでしりとり DIALOGUE+

生活が続いてって 隙間でこぼれ落ちた
この光はなんだっけ 名前を付けなくちゃ
おもいでしりとり DIALOGUE+

惹かれている事実とバランスを取るかのように、あえて背を向けてしまうような偏屈な気持ち。はっきりとした名前をつけることに悩んでしまうような、ふわふわとした想い。「おもいでしりとり」と同じ田淵さん作詞による、UNISON SQUARE GARDENの「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」が思い浮かんだ。

君にたどり着くまで後どれくらいかかるんだろう
私は、ごめん、ふわふわ わがままだな
8月、昼中の流れ星と飛行機雲 UNISON SQUARE GARDEN

曲がりくねった道のりだったけどちゃんとさ 今はちゃんとさ ほらね
君へと 向かってる…はず
8月、昼中の流れ星と飛行機雲 UNISON SQUARE GARDEN

「うまく言葉にできないふわふわとした想い」については、先述の「あやふわアスタリスク」にも書かれている。

”短い言葉で心を表せ"
解答用紙の空欄たち
あやふわアスタリスク DIALOGUE+

僕らがいる現在地は まだ あやふわふや
切ない胸の温度は まだ あやふわふや
あやふわアスタリスク DIALOGUE+

田淵さんの紡ぐ 「曖昧な心情に揺れるこころ」は、なぜこんなにも俊逸なのだろう。他の曲についても調査してみたところ、全く同じフレーズが二つの曲に見られた。

パンドラの箱をノックして "あやふやな未来"を取り出してそこに
"私たち"を×(かけ)て=最強、といたします!
大冒険をよろしく DIALOGUE+

当たり前を数えよう
あやふやな未来だけど 楽しいことばっかり
あたりまえだから DIALOGUE+

 「あやふやな未来」。こちらも曖昧でふわふわとした想いを感じるフレーズだ。しかし、書かれているのは単なる悲観ではない。そのあやふやさを、未知なる可能性に繋げている。胸にストンと落ちる感覚があった。

私はいつだって臆病で、先の見えないことに不安を感じてばかりいる。故に遠回りしてしまったり、目を瞑ってしまったり。そんな弱い思いも肯定したうえで、勇気を与えてもらったような気がしたのだ。

 

そして、「おもいでしりとり」発売後の定期公演。

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生バンドをバックにノンストップで駆け抜けた、全3回のライブ。「フラフラ」というライブタイトルの下、披露される新曲たち。まさに未知なる可能性を感じる公演であった。

 

9月1日に1stフルアルバムの発売を控えているDIALOGUE+。

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10月からは、こちらを引っ提げた初のライブツアーも決定している。まだまだ"あやふやな未来"に満ちた世の中であるが、次こそは現地参戦したい。

 

ひたむきに進む彼女たちの、新たな一面を見られることを祈って。

 

DIALOGUE+1(初回限定盤)(特典なし)DIALOGUE+1(通常盤)(特典なし)

 

*1:現在はユニバーサルミュージック内Top J Recordsに移籍

*2:「Domestic Force!!」作詞

*3:トーク!トーク!トーク!」作詞

*4:「好きだよ、好き。」編曲

*5:9月1日発売の1stアルバム「DIALOGUE+1」にて収録予定

"推し”と揺らぐ心の話 〜「推し、燃ゆ」感想

まともに顔も見られないような、この感情を何と呼ぼう。

 

待ち焦がれていた日々に絡まる、嬉しさと恥じらいと不安。どんな心持ちでいるべきなのかわからなくて、答えを求めた本の海。そして出会った一冊の本。

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第164回芥川賞受賞作、「推し、燃ゆ」。

最低限の生活がこなせない女子高生、あかり。苦しみ生きる中でも、"推し"のことにだけは全力を出し切り、希望を抱くことができた。しかし、"推し"が「炎上」してしまうことで、そのバランスがぼろぼろと崩れていく。

この小説でまず驚かされたのは、インターネット社会のリアルな描き方だ。「チケット当たんなくて死んだ」「目が合ったから結婚」と仰々しい表現でSNSに投稿するオタク達。不祥事を起こした人間に対して「燃えるゴミ」と叩く某掲示板の住人達。女性声優に対しておっさん構文を用いメッセージを送る、中年世代達。そのどれもが、普段私が目にしている"インターネット"そのものであった。この中であかりは、"推し"に対しての解釈ブログを書き綴る著名な「ガチ勢」オタクである。実際、彼女の"推し"に対する描写は、どれも美しいものばかりだ。

真っ先に感じたのは痛みだった。めり込むような一瞬の鋭い痛みと、それから突き飛ばされたときに感じる衝撃にも似た痛み。(中略) 彼の小さく尖った靴の先があたしの心臓に食い込んで、無造作に蹴り上げた。この痛みを覚えている、と思う。

推し、燃ゆ 宇佐見りん(河出書房新社)

存在が好きだから、顔、踊り、歌、口調、性格、身のこなし、推しにまつわる諸々が好きになってくる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、の逆だ。その坊主を好きになれば、着ている袈裟の糸のほつれまでいとおしくなってくる。

推し、燃ゆ 宇佐見りん(河出書房新社)

自分もこのように書き綴ってみたい、と嫉妬してしまうほどの巧みな表現。まさに現実のTO(トップオタ)そのものである。 だからこそ、"推し"の炎上をきっかけに崩れていく彼女の生活に息を吞んでしまう。

推しがいなくなったらあたしは本当に、生きていけなくなる。あたしはあたしをあたしだと認められなくなる。

推し、燃ゆ 宇佐見りん(河出書房新社)

詳しい顛末については是非その目で確かめていただきたいのだが(冒頭試読はこちら)、"推し"の齎す身体の軽さも、"推し"を失うことで崩れていく心も、どちらも馴染み深いもので。たとえどんなに信頼を寄せていても、"推し"が人間である限り、逃れられない終わりはきっとある。その時に自分はどうなってしまうのだろうか。とても嬉しいはずなのにどこか不安な気持ちは、きっとここに起因するのだろう。

 

「推しを推すこと」について改めて思いを巡らす、大切な小説となった。

ワンダーランドへようこそ ~アニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第2話 感想

 

あまいものに囲まれて。

とびきりキュートなモダン・ガール!

 

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──それは、紛れもなく「スクールアイドル中須かすみ」の姿だった。

 

 

前回記事↓

 

だからかすみんは、全てにおいて可愛くないとダメなんです!

可愛いの前には妥協なんてありえません!可愛いは覇道!

スクスタ 中須かすみキズナエピソード16話「かすみの日課

かわいいものが大好きで、スクールアイドルに対する強いあこがれを持つ女の子、中須かすみ。ニジガクでの私の推しである彼女は、ありがたいことに一番ソロ曲が多く、そのどれもが魅力的なものだ。しかし、すこし違和感はあった。「中須かすみの内面が濃く描かれすぎている」ということである。

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デビュー曲、「ダイアモンド」。コールがたいへん楽しく、ライブでの盛り上げ曲ではあるのだが、以下のフレーズがどうしても引っかかってしまっていた。

宿敵!ライバル!完璧な対策。
困る顔が目に浮かんでにやける‥ってああ!!

中須かすみ(相良茉優) ダイアモンド 歌詞 - 歌ネット

 この「腹黒さ」こそが彼女の個性であり大好きなところではあるのだが、実際これをファンの前で歌うだろうか、という疑問がずっとあった。

 

同好会のメンバーに「腹黒さ」を指摘された時、彼女は以下のように否定している。 

不幸の手紙なんて書きません!清純派スクールアイドルですし!

スクスタ 中須かすみキズナエピソード17話「全然気にしてませんけど!」

あざといとか腹黒いとか、なに言ってるんですか?ピュアッピュアなかすみんには、なにもわからないです~?

スクスタ 中須かすみキズナエピソード21話「集まれ!キャス民!」

彼女の「腹黒さ」はすぐバレてしまうようないたずらばかりで、周りも認知しているような可愛いものではあるのだが、彼女のスタンスとしてはあくまでも「清純派スクールアイドル」なのである。そのため、「腹黒さ」を大々的にアピールするような歌詞は歌わないのではないかという認識があった。

 

 

また、ニジガク3rdアルバムに収録されている「Margaret」。

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この曲については、スクスタのキズナエピソード18・19話にて深く描かれている。ひとりきりの部室で、自分のかわいさに自信を失くすかすみ。その様子を「あなた」に見られていたことに気づいた彼女は、慌てて弁明する。

ちょっと落ち込んだフリをしてみただけです。そういう、か弱いところを見せるのも、演出としてありかな~って試してました!いつもと違うかすみんも、きっと可愛いですもん~♪

スクスタ 中須かすみキズナエピソード18話「尋ねるまでもないことだけど!」

そしてこれをきっかけに生まれたのが「Margaret」である。彼女の語る通り、普段とのギャップにきゅんきゅんする一曲となっているのだが、彼女のスタンスとしてはあくまでも「演出」であり、謂わば「番外編」である。そのため、これを彼女自身の "一番の推し曲" にしないのではないかという認識があった。素の彼女が強く反映されている歌詞である「無敵級*ビリーバー」についても同様の認識である。

 

 

よって、私の中での「スクールアイドル中須かすみ」としての "一番の推し曲" は「☆ワンダーランド☆」であった。この曲については、スクスタのキズナエピソード11話にて言及されている。

かすみんファンクラブの楽しさを歌にして、次のライブで披露するんです!ファンクラブに入れば超絶かわいいかすみんのこんなところやあんなところが見れちゃうよって歌詞にして……。難しいかもしれないんですけど、そういうことが伝わるような、そんな曲を作りたいです!かすみんの作詞で!

スクスタ 中須かすみキズナエピソード11話「もっともっと!」

彼女自身の手で記される、かわいいワールド全開の歌詞。彼女の表現したいものがぎゅっと詰まっている大好きな曲なのだが、唯一MVが無い楽曲であり残念な気持ちがあった。

 

そんな中放送されたTVアニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第2話、「Cutest♡ガール」。

世界でいちばんのワンダーランド。

そんな場所に行けると、思ってたのに…….。

 アニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第2話「Cutest♡ガール」

はじまりの、かすみの独白。まさかいきなり「ワンダーランド」という単語が出てくるとは思わなかったので驚いた。

アニメではこの「ワンダーランド」が一体どんなものなのか、ということが言及されていく。スクスタではかすみ自身のファンクラブのコンセプトでしかなかった「ワンダーランド」。それは、かわいいものに溢れた世界であり、アニメ序盤でも同様に言及されている。

しかし、せつ菜との衝突、侑・歩夢との交流を通じ、以下の結論を導き出している。

いろんな「かわいい」も「かっこいい」も一緒にいられる、そんな場所が本当に作れるなら──そこは絶対、世界でいちばんのワンダーランドです!

 アニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第2話「Cutest♡ガール」

各々の "大好き" が共存できる場所としての「ワンダーランド」。自分自身のやりたいことは貫きたい。ただ、それを人に押し付けることはしたくない。そんな彼女の想いが強く、やさしかった。そして、この結論を胸に披露された新曲、「Poppin' Up!」。

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はっとさせられるようなイエローのワンピース。丸襟にパフスリーブ、パニエたっぷりのふんわりミニスカート。白ドットの裏地がアクセントな、大きなリボンのついたハット。首元の水色のスカーフに、おそろいのリボンのついた白手袋と黒パンプス。お菓子にあふれたカラフルなステージ。そのどれもがかわいくて!

 「360°どこへでも」「弾けるような瞬間を」「一秒でも長くかわいくいたいから」「オンリーワンのきらめきを」歌詞にも、"明るく元気でかわいいかすみん" がたっぷり詰まっていて。リズムに合わせてはじけるスイーツが楽しく、過去のお衣装も相まって魔法少女のようだった。また、そんな世界で"自分の旗"を力強く掲げる彼女がとても眩しかった。

ここには、「スクールアイドル中須かすみ」として彼女が一番表現したいものがきっとぜんぶ詰まっていて。これをTVアニメという場で見られて本当に良かったな、と思った。

 

アイドルが、"自分のいちばん見せたい姿"を見せられること。そしてそれを見届けられること。これこそが自分の幸福なのだと、改めて思い知らされた回であった。素敵なお話をありがとうございました。

走るトキメキ、追いかけて。 ~アニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話 感想

鍵穴するり掻いくぐり、

ぴょこぴょこ走る白うさぎ。

だけど私は知らんぷり、

きょうもこころの騙しあい。

 

 

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TVアニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話、「はじまりのトキメキ」 。虹ヶ咲についてはスクスタ(ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS)のストーリーを履修していたため、一体どうなるのだろうかと思っていたが、予想以上であった。

 

まず、アニメ化にあたり一番の懸念事項は「プレイヤーがひとりのキャラクターとしてビジュアル化されている」ということであった。スクスタでは、プレイヤーは「あなた」としてスクールアイドルたちと深く関わっていくことになる。この際「あなた」に明確なビジュアルやボイスは無いため、各々のイメージでゲームを進める事ができた。しかし、アニメでは「高咲侑」というキャラクターが「あなた」としてスクールアイドル達と関わりを持つことになったのだ。ここが物語にどう作用していくかが推測不能であった。

 

第1話では「高咲侑」とその幼馴染である「上原歩夢」が、ショッピングモールをぶらつく場面から始まる。トランプに囲まれたディスプレイに飾られているピンクのワンピースを見た侑は、歩夢に声を掛ける。

侑「歩夢、これいいんじゃない?似合うと思うよ」

歩夢「い……いいよ、かわいいとは思うけど子どもっぽいって」

侑「そうかな?最近までよく着てたじゃん」

歩夢「小学生の時の話でしょ!……もうそういうのは卒業だよ」

アニメ「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」第1話「はじまりのトキメキ」

そして隣に飾られている子ども用のうさ耳パーカーを見ながら、幼稚園の頃の話をするふたり。昔みたいに「あゆぴょん」ってやってみてよ、という侑に対し、歩夢は呆れと照れの混じった反応を返し、話題を切り替える。なんてことのないような、二人の日常。そんな最中、店外で何かの歓声が上がっていることに気づく。軽い気持ちで覗きに行った二人。しかし、そこでスクールアイドル「優木せつ菜」に出会ったことで、物語は大きく動き始める──。

 

 

 

 

※以下大きなネタバレを含みます※

 

 

 

 

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650日分の祝福を

私には、この幸せを享受する資格があるのだろうか。

そう思ってしまうくらいに、あなたの息遣いが聞こえる日々は幸福で。

もう一度この道を選んでくれてありがとう。あらためて、おかえりなさい。

 

 

2020年、夏。私はひどく心が沈んでいた。まさに、先が見えない真っ暗な闇の中。明かりを灯そうにも、求めるひかりはひとつしかなくて。でもきっと、それを得られるのはもっと先のことになるだろうと思っていた。

8/12。突然の吉報は、FC動画によって齎された。ずっと待ち望んでいたそのひかりは、驚くほどに大好きな面影そのままで。1年9ヶ月という年月と大きな病を乗り越えた後でもなお、その姿を見せてくれることに、ただただすごいと思った。そして何よりも、もう一度アイドルという道を選んでくれたことが本当に嬉しかった。アイドルという仕事は、きっと私が思っている以上に過酷なものだ。且つ彼に降りかかった病は、その根本を大きく揺るがすものであったに違いない。他の道を選んでも全くおかしくない状況であったはずだ。しかし、彼はこうして戻ってきてくれた。どんなに感謝してもしきれない気持ちでいっぱいになった私は、はじめてファンレターをしたためた。

彼の今の姿を見られるだけでこんなにも世界が輝いて見えるのか、と実感し始めた8/21。健人くんのブログに、彼の動画が投稿された。休止の頃にはなかったシステムである「ブログへの動画投稿」にどきどきしながらも開いた私は、見事にその姿に打ち抜かれた。FC動画の際には気付かなかったが、休止前よりも更に美しくなっているのである。雰囲気はそのままに美しくなるだなんて、そんな都合の良いことがあっていいのかと思わず天を仰ぎ涙を流してしまった程である。

8/26には、新たなFC動画が投稿された。新曲のダンスを彼に教えようという企画だったのだが、復帰後2回目とは思えないほどの和やかさに満ちた動画であった。まず、彼の動きがうるさい(いい意味で)。他のメンバーも言動が各々フリーダムである。私がSexy Zoneを好きになったきっかけが「らじらー!サタデー」だったのだが、まさにその空気を感じられるたいへん楽しい動画であった。

同じ週である8/29には、アーティスト写真が更新された。白いスーツに身を包み、センターで膝を立てて座るその姿があまりにも勇ましく動揺した。一方、個別のメンバー写真ではにこにこの笑顔でありそちらにも悶えた。

これは雑誌仕事が楽しみだと思っていたところ、9/10にはnon-no12月号表紙の知らせが入ってきた。キャッチコピーは、「最強の5ショット!」。こんなにも元気の出る言葉はなかなか無いな、とすぐに予約をした。その夜には、Sexy Zoneの冠ラジオであるQrzoneにて、復帰後初パフォーマンスの告知があった。舞台は、9/12の「THE MUSIC DAY」。日テレの大型歌番組ということで、奇しくも休止発表の日のことを思い出し、胸がきゅっとなった。

 

期待と不安が入り混じるなか迎えた、9/12。いつもとは違う遅い時間帯でのパフォーマンス。これも休止の頃には無かったシステムだよなと思いつつ、番組公式twitterの動画をRTしながら、ただただ出番を待った。

ジャニーズシャッフルメドレー第二弾が終わり、やってきた21時台。胸の高鳴りは最高潮。時間帯の中での順番は分からないため、常に油断ならない状況。そしてついに、5人の姿が映る。CM中になんとか調子を整え、画面を凝視する。

 

休止直後に今度はもっと幸せな話題で取り上げられて欲しいなと思ったワイドショー、Sexy Zoneのムードメーカー、ずっと心に残っている24時間テレビ、MCで真ん中に立つ姿、優しい声と柔らかな笑み、買ったはいいものの数回しか聴けていないRUN、この曲はまさに今の彼らの姿と重なりますね、1年9ヶ月ぶりのパフォーマンス、はじまるイントロ、いちばんに抜かれる真剣な眼差し、まるでブランクを感じさせないしっかりとしたダンス、「君の過去も今も未来も」、センターの映えるフォーメーション、いままでに見たことのない表情、え、なに、ちょっと待って、待たない、サビで立つセンター、「街は眠るパラパラと変わって行く信号機」、その首の動き、間奏、またセンター、だからそのかお、アウトロ、解ける表情、満面のえみ、に、わたしは、くずれおちること、しか、できなかった、

 

 

━━私がきちんと言葉を発せるようになった頃には、番組内のドラマはとっくに終わっていて。それまでずっと、友人に抱きついたままうわああん、と叫び続けていた。想像を遥かに超えるパフォーマンスについてなんとか語りたかったのだが、なかなか舌が回らなかった。

まず何よりも思ったのは、そんな表情もできるんだね、ということだった。私は彼の目まぐるしく変わる表情が好きで、特に好きなのは真剣な眼差しだ。今まで何回もその表情に打ち抜かれてきたが、今回の「真剣な眼差し」は初めて見るものだった。一瞬の、剥き出しの苦悩。しかし次に見せる瞳は、絶望ではなく、不屈の意志を湛えていた。今の彼の強さを形にしたような、途轍もなく熱い眼差し。

次に、「RUN」で良かったな、と心の底から思った。紹介にもあった通り、今のSexy Zoneとも重なる曲。数多くの困難に立ち向かってきた彼に「君の過去も今も未来も」というフレーズが割り振られた事実。過去の葛藤と今の努力が報われ、幸せな未来が訪れてほしいという祈りを改めて捧げることになった。また、私がこの曲で一番好きな、以下のフレーズ。

感じているんだろう?感じてなきゃダメ

痛みに気づかないふりをするな

Sexy Zone RUN 歌詞

きっと彼は痛みがよく分かる人なのだろうと、私はずっと思っている。だからこそ向き合っている苦悩が、恐らくたくさんあって。それでもこうして前に進んでいけるところが、本当にすごいことだよな、と思う。痛みを知っているからこそのやさしさに、私は強く惹かれているため、このフレーズのある曲を歌ってくれたことが嬉しかった。

そしてこれらの説得力を高める、強いパフォーマンス力。1年以上のブランクを感じさせないそのダンスに、目が釘付けになった。ここでも、アイドルでいてくれることのありがたさを改めて感じることとなった。

 

1年9か月の間、とても苦しくて。でも、一番苦しかったのはきっと紛れもなく彼自身で。それなのに今こうしてこんなにも幸せを与えられる彼は、本当にすごいアイドルだ。自分にその幸せを受け止める権利があるのか、という思いがずっとぐるぐるしているが、彼がアイドルでいてくれる以上、日々精進していくしかない。ひとまず今は、これからの彼の人生が幸せに満ち溢れることを祈っている。

 

 

どんなに感謝してもし切れないから、最後にもう一度。

松島聡さん、ふたたびアイドルの道を選んでくれてありがとう。

大好きです。

普通星人は輝きたい ~ラブライブ!サンシャイン!!が照らすもの~【後編】

輝きって、一体どこから来るんだろう?

ラブライブ!サンシャイン!! 2期1話 ネクストステップ

廃校の阻止、そして「自分たちだけの輝き」を掴むため、ラブライブ!地区予選大会に出場したAqours。結果は予選敗退。テレビアニメ2期にて、舞台は2学期に突入した。「過ぎたことをいつまで言っていても仕方ない」と次のラブライブ!に向けて練習を再開するAqours。しかしそんな彼女たちに、正式に廃校が決定したとの知らせが届く。意気消沈した9人だったが、それでも絶対に諦めたくない、奇跡を起こしてみせると決意を新たにするのであった。

sweet-apple-tea.hatenablog.com

 

 

 

普通星人の輝き

「今年の終わりまでに入学希望者が100人集まれば、廃校を阻止できる」。この条件を取り付けた千歌たちは、二度目のラブライブ!地区予選大会に向けて動き始める。入学希望者を集めるラストチャンスとなるこの大会に、「自分たちだけの輝き」を形にしたいと改めて口にする千歌。その結果、高難易度のロンダートバク転に挑戦することになるが、なかなか成功することができない。何度も何度も挑戦しながら涙を流す千歌に、梨子と曜は尋ねる。

曜:まだ自分は普通だって思ってる?

梨子:普通怪獣ちかちーで、リーダーなのにみんなに助けられて。ここまで来たのに、自分は何もできないって。ちがう?

ラブライブ!サンシャイン!! 2期6話 Aqours WAVE

だってそうでしょ、と弱々しく答える千歌に、ふたりはやさしく声をかける。「今のAqoursができたのは誰のおかげか」、「みんながスクールアイドルを始めたきっかけは誰なのか」。「千歌がいたからこそ今があること」を伝えた梨子と曜は、更に言葉を投げかける。

梨子:自分の事を普通だって思っている人が、諦めずに挑み続ける。それができるってすごいことよ。すごい勇気が必要だと思う!

曜:そんな千歌ちゃんだから、みんな頑張ろうって思える。Aqoursをやってみようって、思えたんだよ。

ラブライブ!サンシャイン!! 2期6話 Aqours WAVE

このシーンを初めて見たとき、私は「救い」だと思った。普通の人間であっても、諦めずに何かに挑み続ければ、それは長所に成り得る。「普通星人」である私は、この言葉に大変勇気づけられた。自分がこの評価を得るにはまだまだ努力が足りないが、いずれこうなれるようにと強く心に刻むようになった。

また、この言葉は「高海千歌自身の輝き」を的確に表している表現でもある。「普通星人」、「普通怪獣」だと自称しつつも、決して夢は捨てない。だからこそ応援したくなる。まさに、「みんなで叶える物語」を導く女の子。

そしてこの言葉を得た千歌は、見事ロンダートバク転を成功させるのだ。

 

 

 

千歌たちの結論

これまで様々な「輝き」について述べてきたが、結局「Aqoursだけの輝き」とは何だったのか。2期最終話、「私たちの輝き」にて千歌は以下のように述べている。

分かった。私が探していた輝き。私たちの輝き。あがいてあがいてあがきまくって、やっと分かった。最初からあったんだ、はじめて見たあの時から。何もかも、一歩一歩。私たちが過ごした時間の全てが、それが輝きだったんだ。探していた私たちの、輝きだったんだ。

ラブライブ!サンシャイン!! 2期13話 私たちの輝き

「自分たちだけの輝き」とは、「自分たちの過ごした時間全て」のこと。これは一体どういうことなのか。

前回突破できなかった地区予選大会をクリアし、決勝に進んだAqoursは、見事優勝を果たす。廃校については阻止できなかったが、「母校の名前をラブライブ!の歴史に刻むこと」で学校を救うことはできた。閉校式にて、生徒たちが千歌に声を掛ける。

生徒:あの時、私たちから見えてた千歌たち。輝いてたなあ……本当、目開けてられないくらい!

千歌:私たちにも見えてたよ、輝いてるみんなが。会場いっぱいに広がる、みんなの光が!

生徒:じゃあ、全部輝いてたんだ!

千歌:うん、全部輝いてた!

ラブライブ!サンシャイン!! 2期13話 私たちの輝き

このような会話を交わした千歌だったが、自分は本当に「自分たちだけの輝き」を見つけられたのか、確証が持てない。浜辺で蹲る千歌を見守る、母と姉。不意に、母親が紙飛行機を飛ばす。飛ばしてもすぐに落ちる、紙飛行機。千歌が飛ばしてみても、その結果は同じだった。地面に落ちるそれを見ながら、千歌は母に問いかける。

千歌:私、見つけたんだよね?私たちだけの輝き。あそこにあったんだよね?

母:ほんとにそう思ってる?

姉:何度でも飛ばせばいいのよ、千歌ちゃん。

母:本気でぶつかって感じた気持ちの先に、答えはあったはずだよ。諦めなかった千歌には、きっと何かが待ってるよ。

ラブライブ!サンシャイン!! 2期13話 私たちの輝き

千歌はもう一度、祈りを込めて紙飛行機を飛ばす。どこからか強い風が吹き、ふわりと舞い上がる紙飛行機。必死に追いかけた結果たどり着いたのは、別れを告げたはずの校舎だった。次々と蘇る、これまでの日常。頬を伝う涙。

このあと、千歌は冒頭の結論を導き出している。おそらく彼女は、これまでの思い出すべてを輝かしく感じたのだろう。そのため、ラブライブ!決勝のステージだけを「輝き」と呼ぶことに違和感を感じたのではないだろうか。「ミライへ向かうために重ねたイマ」、すべてが「輝き」。それは彼女がμ'sを初めて見た時から始まっている。だからこそ「輝き」は、最初からあったものなのだ。また、これまで彼女たちが「輝き」と呼んだものも、やはり「輝き」なのだろう。そういった「小さな輝き」が積み重なった結果、「世界にひとつだけの大きな輝き」が出来上がった。積み上げたものすべてが同じものなどない。このような理由で、「自分たちの過ごした時間全て」が「自分たちだけの輝き」となったのではないだろうか。

 

 

 

声優ユニットとしてのAqours

以上が、テレビアニメで語られた「輝き」の話である。ここからは視点を変えて、別コンテンツから見た「Aqoursの輝き」について紹介する。

Aqoursはμ'sと同様に、声優ユニットとしての活動も行っている。μ'sも成し遂げた紅白出場東京ドーム2daysはもちろん、FNS歌謡祭やCDTV等の歌番組への多数出演、ファンクラブの設立など精力的な活動を展開している。

そんな声優ユニットとしての「Aqoursの輝き」であるが、なんといってもパフォーマンス力の高さである。その水準は声優界トップレベルと言っても過言ではないだろう。

まず、アニメの再現率の高さ。アニメ映像と同じダンスを、高純度のシンクロ率で披露する。これはμ'sも同様の点ではあるが、Aqoursはそれ以外のアプローチも用いて更に再現度を高めている。

例えば1stライブでの「想いよひとつになれ」。桜内梨子役の逢田梨香子さんが、作中の梨子と同様にピアノを披露している。なお、逢田さんにとってはこれがピアノ初挑戦。そのため、1stライブからファンの度肝を抜くこととなった。

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そして、3rdライブでの「MIRACLE WAVE」。前述「普通星人の輝き」でも紹介した、ロンダートバク転を取り入れたパフォーマンスだ。作中でも高難易度と称されるこの技を、高海千歌役の伊波杏樹さんが見事成し遂げてみせた。

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また、アニメ映像のない曲にも、魅力的なものはたくさんある。とびきりキュートな「少女以上の恋がしたい」に、バリバリのダンスナンバーである「Daydream Warrior」。個性豊かなユニット曲たちも捨てがたい。

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このように、例えアニメを知らなくても楽しめるのが彼女達のライブであり、声優ユニットAqoursとしての輝きなのではないかと考えている。



 

μ's・ニジガクメンバーから見た輝き

最後に、アプリゲーム内で描写される「Aqoursの輝き」について紹介する。もしμ'sとAqoursが同時期にスクールアイドルとして活動していたらどうなるのか。それを叶えたゲームが、「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS(スクスタ)」だ。スクスタでは、μ'sとAqoursの他に「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(通称:ニジガク)」が登場する。プレイヤーはニジガクの部長となり、スクールアイドルをサポートする役回りとなる。このゲームでのAqoursは、「自分たちだけの輝き」をまだ見つけられていない。Aqoursの魅力の秘密を尋ねたプレイヤーに対して、千歌たちは以下の会話を繰り広げる。

千歌:私達の魅力……それは……何だろ?

曜:改めて考えてみると分かんないもんだね!

千歌:多分、私達もそれを探してるんだと思う。最初はね、μ'sに憧れてスクールアイドルになったの。宝石みたいにキラッキラに輝いてて、私もああなりたいって思ったんだ。でも、だからってμ'sの真似をするのは違うって気付いた。じゃあ、私達らしく輝くにはどうすればいいのか、いつも考えてるの。

スクスタ メインストーリー第3章第3話 Aqoursの謎

また、他のメンバーにも「輝き」について尋ねるプレイヤー。それに対して、花丸たちはこう答えている。

花丸:ふふっ。あなたも千歌ちゃんの洗礼を受けたんだねぇ。……マルも、ずっと探してるずら。Aqoursだけの輝き。

ルビィ:いつかルビィ達だけの「輝き」を見つけて、ルビィ達にしか出来ないライブをやりたい。そう思ってるよ。

スクスタ メインストーリー第3章第5話 Aqoursに会いに行こう!②

このように、自身は結論を出せていないAqours。しかし他のスクールアイドルによって、その魅力が語られる。

沼津での合同合宿のさなか、早朝トレーニングに駆け出すAqours。ただでさえ足を取られる砂浜で、ダンス練習をする彼女たち。その様子を盗み見ていたμ'sとニジガクメンバーは、こっそり言葉を交わす。

穂乃果:あんなフォーメーションダンス、私たちもしてみたいな~!

せつ菜:全員の呼吸がぴったり合ってこそのダンスですよね。

ことり:うん。お互いのことをわかりあってなきゃ無理だと思う。……凄い信頼関係だよ。

果林:素敵な光景だわ。見ているだけで体が熱くなっていく

絵里:でも、ちょっと悔しいわね……。

穂乃果:うん、こんな光景を見せられたら、燃えてきちゃうよね。

スクスタ メインストーリー第12章第6話 Aqoursの力!

同業者から見ても分かる、高いパフォーマンス性。これはまさに、声優ライブと合わせて考えてみても納得の評価である。そして、観客を自然と熱くさせる力。「自分たちだけの輝き」を掴むためひたむきに走るその姿は、共鳴を齎す強い光となり、我々に降り注ぐ。かつて彼女がμ'sに「輝き」を見出したように、今はAqours「輝き」そのものとなっているのだ。

 

 

 

普通星人は輝きたい

大好きなものへの憧れに共感し、踏み込んだ、ラブライブ!サンシャイン!!の世界。その光は、今も私を照らし続けている。いつか私も、「自分だけの輝き」を誇れる日が来ますように。

 

普通星人n号は、「イマ」を重ね続ける。

普通星人は輝きたい ~ラブライブ!サンシャイン!!が照らすもの~【前編】

私ね、普通なの。
私は普通星に生まれた『普通星人』なんだって。どんなに変身しても普通なんだって、そんな風に思ってて。それでも何かあるんじゃないかって思ってたんだけど……気がついたら高2になってた。まずーっ!このままじゃ本当にこのままだぞっ!『普通星人』を通り越して『普通怪獣』千歌ちんになっちゃうーって!
そんな時出会ったの、あの人達に。
この人達が目指した所を、私も目指したい。私も、『輝きたい』って!

ラブライブ!サンシャイン!!  1期1話 輝きたい!!

『普通星人』。その言葉がすとん、と胸に落ちた。まさに自分を表す名称だったからだ。『普通星人』で『普通怪獣』。だけど、何かに全力になって『輝きたい』。そんな女の子がスクールアイドルを目指したら一体どうなるのだろう。彼女──高海千歌の想いにシンクロした私は、一気にこの世界に飲み込まれた。

 

 

 

ラブライブ!サンシャイン!!のはじまり

ラブライブ!そしてμ'sとの出会いから1年少し経った後のこと。とあるニュースが、SNSを騒つかせていた。ページを開くと現れる一枚の画像。真っ青な海を背景に、砂浜に立つひとりの少女。上部には、「助けて、ラブライブ!」の文字。突如発表された新プロジェクト、「ラブライブ!サンシャイン!!」。

gs.dengeki.com

突然のニュースに驚きはしたが、ついに来てしまったか、という思いの方が強かった。この頃、アニメの中でμ'sは、3年生メンバー卒業の時を迎えていた。続編の劇場版が決定してはいたものの、以降の展開が見えない状況。よって、別キャラクターの新作も覚悟はしていたが、いざ発表されると落ち着かなかった。きっとμ'sの活動は縮小していくのだろうという悲しみと、新しい子たちをここまで好きになれるのだろうかという疑問。当時、ファンの間でも様々な論争や批判の声が見られたのをよく覚えている。しかし、個人的な不安はひとつの要素で緩和された。

最初はアイドルになるなんて、こんな田舎に住んでる私たちなんかにはどうせありえない遠い世界だって、やる前から諦めてたけど。でも──諦めなければ夢は叶うってことを──あの憧れのスクールアイドルμ'sが教えてくれたから。みんなは笑うけど、私は本当に真剣なの。あんな風にキラキラ光ってる大好きなμ'sにほんの少しでもいいから近づきたい。

ラブライブ!Official Web Site | 『ラブライブ!サンシャイン!!』グループ名募集特設ページ

主人公の高海千歌が語る、「μ'sへの憧れ」。馴染みのある感情だった。自分と同じようにμ'sが大好きな女の子が、憧れに向かって手を伸ばす。この事実に想いがこみ上げ、少しずつ彼女達のことを追うようになっていった。

 

 

 

「輝き」を追うものたち

プロジェクト始動から1年半後、テレビアニメ放映開始。1話「輝きたい!!」は、千歌が偶然μ'sのライブ映像を見かけるところから始まる。

普通な私の日常に突然訪れた、奇跡。
何かに夢中になりたくて、何かに全力になりたくて、脇目もふらずに走りたくて。でも、何をやっていいか分からなくて。
くすぶっていた私の全てを、吹き飛ばし、舞い降りた!

ラブライブ!サンシャイン!!  1期1話 輝きたい!!

こうしてμ'sの虜になった千歌は、スクールアイドル部を立ち上げるべく部員を募集し始める。しかし、簡単には集まらない。そんな帰り道、東京からやってきた高校生、桜内梨子と出会う。スクールアイドルを知らないと話す梨子に、千歌はμ'sへの憧れを語る。この時に出てきたのが、「普通星人」と「普通怪獣」の話だったのだ。

普通であることのもどかしさ、それでも輝きたいという気持ち。自分の感情にぴったり当てはまるテーマが提示されたことに驚いたが、驚いたのはそれだけではない。自分の予想以上に、μ'sの名前が頻繁に出現し、映像もしっかり流れるということだった。例えば、1話では「START:DASH!!」が千歌がμ'sを知ったきっかけの映像として用いられている。また、2話では千歌が「スノハレ(Snow halation)みたいな曲を作る」と発言していたり、梨子が「ユメノトビラ」を弾き語りしたりする場面がある。これらの要素もあり、私は「サンシャイン!!」の世界にどんどんのめり込んでいった。

「輝き」は千歌だけではなく、他の登場人物にも重要なキーワードとなっている。

長年続けてきたピアノが上達しなくなり、環境を変えるため東京から引っ越してきた梨子。スクールアイドルへの想いをキラキラな目で語る千歌を見て、かつてピアノを弾いていたときの感情を思い出す。

ピアノ弾いてると空飛んでるみたいなの!
自分がキラキラになるのっ、お星さまみたいに!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期2話 転校生をつかまえろ!

スクールアイドルへの憧れを抱きつつも、周りに気を遣って想いを胸に閉じ込めていたルビィ。彼女の背中を押すため、親友である花丸は一緒にスクールアイドル部へ体験入部することを決心する。

その胸の扉を思い切り開いてあげたいと、ずっと思っていた。
中に詰まっているいっぱいのを、世界の隅々まで照らせるようなその輝きを、大空に放ってあげたかった。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

一方、スクールアイドルを眩しげに眺めつつも、自分には向いていないと思っていた花丸。彼女の体験入部での様子を見て、ルビィも背中を押す。

練習の時も、屋上にいた時も、皆で話してる時も。花丸ちゃん、嬉しそうだった。それ見て思った、花丸ちゃん好きなんだって。ルビィと同じくらい好きなんだって!スクールアイドルが!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

「堕天使ヨハネ」と自称していたが、高校生にもなって通じないとその想いを封じようとする善子。なぜ堕天使だったのかという梨子の疑問に対して、幼馴染の花丸が以下のように語っている。

ずっと普通だったんだと思うんです。私達と同じで、あまり目立たなくて。そういう時、思いませんか?これが本当の自分なのかなあって。元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかって。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期5話 ヨハネ堕天

今の自分がもどかしくて、変わりたくて。そんな子たちがスクールアイドルを通して「輝き」に手を伸ばす物語が、「ラブライブ! "サンシャイン"!!」だったのだ。こうして集まった9人がAqours(アクア)となり、6話で決まった廃校の阻止とラブライブ!優勝を目指すことになる。

 

 

 

μ'sとスクールアイドルについての再発見

「輝き」とは何なのか。サンシャイン!!1期では「μ'sへの憧れ」を通してその答えを導き出している。そもそも、千歌はμ'sをはじめとするスクールアイドルのどこに魅力を感じているのだろうか。

 

μ'sについて、千歌は1話で以下のように述べている。

皆私と同じようなどこにでもいる普通の高校生なのに、キラキラしてた。それで思ったの。一生懸命練習して皆で心を一つにしてステージに立つと、こんなにもかっこよくて、感動できて、素敵になれるんだって!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期1話 輝きたい!!

「皆で心を一つにする」。この点については、μ's自身もそれを魅力だと捉えている。ラブライブ!2期10話、「μ's」。ラブライブ!東京地区最終予選にて、μ'sに敗北したA-RISE。A-RISEのリーダーであるツバサは、μ'sのリーダー穂乃果に質問をぶつける。「μ'sの原動力とは一体何なのか」。この答えを導くため、穂乃果は妹の雪穂に対してμ'sの魅力を尋ねる。「危なっかしい、頼りない、はらはらする。でも何か心配になっちゃうんだよね。」雪穂のこの回答に、音ノ木坂の生徒のみんなが書いてくれたラブライブ!優勝祈願の絵馬。これらを踏まえ、穂乃果は以下の答えを導き出していた。

一生懸命頑張って、それを皆が応援してくれて、一緒に成長していける。それが全てなんだよ。皆が同じ気持ちで頑張って、前に進んで、少しずつ夢を叶えていく。それがスクールアイドル!それが、μ'sなんだよ!

ラブライブ! 2期10話 μ's

結果、μ'sのキャッチフレーズは「みんなで叶える物語」となった。これは、プロジェクトラブライブ!そのもののキャッチフレーズでもある。千歌はまさに、「みんなで叶える物語」に魅力を感じたと考えられる。この点については、サンシャイン!!11話でも以下のように述べられている。

曜:千歌ちゃんにとって輝くという事は自分一人じゃなくて、『誰かと手を取り合い、皆で一緒に輝く事』なんだよね。

梨子:私や曜ちゃんや普通の皆が集まって、一人じゃとても作れない大きな輝きを作る。その輝きが、学校や聞いてる人に広がっていく、繋がっていく。

曜:それが、千歌ちゃんがやりたかった事。スクールアイドルの中に見つけた、輝きなんだ。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期11話 友情ヨーソロー

 

また、5話で千歌は以下のようにも述べている。

μ'sがどうして伝説を作れたのか、どうしてスクールアイドルがそこまで繋がってきたのか、考えてみて分かったんだ。ステージの上で、自分の好きを迷わずに見せる事なんだよっ。お客さんにどう思われるかとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期5話 ヨハネ堕天

 「自分が一番好きな姿を見せる」。この言葉には、"スクールアイドル"の一番の利点が込められていると私は考えている。ラブライブ!1期4話、1年生加入回。スクールアイドルのことは大好きだが、自分には向いていないと俯く花陽。そんな花陽に、自分達こそ性格的には向いていないと答える穂乃果と海未。それでも、と言葉を濁す花陽に、ことりは優しく声を掛ける。

プロのアイドルなら、私達はすぐに失格。でも、スクールアイドルなら「やりたい」って気持ちを持って、自分達の目標を持ってやってみる事はできる!

ラブライブ! 1期4話 まきりんぱな

スクールアイドルの利点、それは、「やりたい」や「好き」という気持ちを最優先できること。プロのアイドルの場合、そのような気持ちだけではどうしても務まらない。様々な制約があり、仕事としての責任も生じてくる。もちろんそれらを乗り越えた上でアイドルを務める人々は素晴らしく、尊ぶべき存在である(この点については3次元のアイドルを推し始めてからより深く感じている)。しかしそれとは別に、自分の「やりたい」や「好き」を前面に押し出す存在があってもいいのではないか。このような思いで、"スクールアイドル"が生まれたのではないかと私は考えている。"アイドル"という言葉については、様々な人々が日々議論を交わしており、その定義は人によって違う。このため"スクールアイドル"にも様々な意見があるとは思うが、私はこれを固有の存在として好意的に受け止めている。

……少々話が脱線したが、これが私の考察する「高海千歌の考えるスクールアイドルの魅力」である。先程、この魅力を示している図としてμ'sの1年生加入回を例に挙げた。サンシャイン!!でそれが色濃く描写されているのも、1年生加入回である。冒頭に示した5話は善子加入回であるし、4話のルビィ・花丸加入回では千歌が以下のように声を掛けている。

一番大切なのはできるかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

 

このように、千歌の考えるμ's・スクールアイドルの魅力を考察することで、改めてそれらの魅力を再発見することができた。私はμ's・Aqours共に1年生推しなのだが、「好き」が原動力である点、そんな彼女たちを応援することで一緒に夢を叶えていける点が大好きなのだと改めて認識することになった。

 

 

 

"Aqoursだけ"の「輝き」

μ'sへの憧れを抱きつつ、廃校を阻止すべく活動を続けていた千歌たち。しかし、ラブライブ!予備予選を突破してもなお、学校説明会への希望者数は0人。μ'sは既にその頃には廃校を阻止できていたと知った千歌は、焦りを感じる。μ'sを知った当初は「自分とそんなに変わらない」「普通の人達が頑張ってキラキラ輝いている」と認識していた千歌だったが、自分たちとは決定的に違う点があるのではないかと考え始める。μ'sはどうして廃校を阻止できたのか、何が凄かったのか。それを確かめるべく、千歌たちAqoursは東京へと向かう。

μ'sがスクールアイドルとして時を過ごし、廃校を阻止した、音ノ木坂学院。校舎の前で、Aqoursはひとりの少女と出会う。「μ'sは学校に何も残していかなかった」と話す少女に、千歌はその答えを得た。帰路の浜辺で、彼女は語り出す。

μ'sの凄いところって、きっと何も無い場所を思いっきり走った事だと思う。皆の夢を叶えるために。
μ'sみたいに輝くって事は、μ'sの背中を追いかける事じゃない。自由に走るって事なんじゃないかな?全身全霊、何にも捕らわれずに、自分達の気持ちに従って!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期12話 はばたきのとき

仲間だけを見て、目の前の景色を見て、真っ直ぐに走る。それが輝く事だと確信した千歌は、μ'sの姿を追い求めることを辞める(実際、この回を機にμ'sの描写がぐっと少なくなっている)。単に「輝き」ではなく「自分たちだけの輝き」を見つけるため、Aqoursは走り出す。我々へのひとつの問いかけと共に。

「君のこころは、輝いてるかい?」

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──ここまでが、ラブライブ!サンシャイン!!1期の内容である。μ'sが大好きで、だからこそ、それ以外を認めたくない。そんな気持ちも掬い上げた上で、次の可能性を上手く示した物語だったな、と思った。少なくとも私は、憧れの象徴としてのμ'sの描写が丁寧であったと思うし、千歌ちゃんに深く感情移入するきっかけにもなった。また、彼女たちがそれに頼らず進んでいく決心をすることで、Aqoursそのものをしっかり見つめられるようにもなった。そして何よりも、「普通星人」という言葉が胸に深く突き刺さった。2期では、そんな「普通星人」に対する"ある言葉"が救いとなっている。後編では、その言葉を中心に「Aqoursだけの輝き」を探っていく。