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普通星人は輝きたい ~ラブライブ!サンシャイン!!が照らすもの~【前編】

私ね、普通なの。
私は普通星に生まれた『普通星人』なんだって。どんなに変身しても普通なんだって、そんな風に思ってて。それでも何かあるんじゃないかって思ってたんだけど……気がついたら高2になってた。まずーっ!このままじゃ本当にこのままだぞっ!『普通星人』を通り越して『普通怪獣』千歌ちんになっちゃうーって!
そんな時出会ったの、あの人達に。
この人達が目指した所を、私も目指したい。私も、『輝きたい』って!

ラブライブ!サンシャイン!!  1期1話 輝きたい!!

『普通星人』。その言葉がすとん、と胸に落ちた。まさに自分を表す名称だったからだ。『普通星人』で『普通怪獣』。だけど、何かに全力になって『輝きたい』。そんな女の子がスクールアイドルを目指したら一体どうなるのだろう。彼女──高海千歌の想いにシンクロした私は、一気にこの世界に飲み込まれた。

 

 

 

ラブライブ!サンシャイン!!のはじまり

ラブライブ!そしてμ'sとの出会いから1年少し経った後のこと。とあるニュースが、SNSを騒つかせていた。ページを開くと現れる一枚の画像。真っ青な海を背景に、砂浜に立つひとりの少女。上部には、「助けて、ラブライブ!」の文字。突如発表された新プロジェクト、「ラブライブ!サンシャイン!!」。

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突然のニュースに驚きはしたが、ついに来てしまったか、という思いの方が強かった。この頃、アニメの中でμ'sは、3年生メンバー卒業の時を迎えていた。続編の劇場版が決定してはいたものの、以降の展開が見えない状況。よって、別キャラクターの新作も覚悟はしていたが、いざ発表されると落ち着かなかった。きっとμ'sの活動は縮小していくのだろうという悲しみと、新しい子たちをここまで好きになれるのだろうかという疑問。当時、ファンの間でも様々な論争や批判の声が見られたのをよく覚えている。しかし、個人的な不安はひとつの要素で緩和された。

最初はアイドルになるなんて、こんな田舎に住んでる私たちなんかにはどうせありえない遠い世界だって、やる前から諦めてたけど。でも──諦めなければ夢は叶うってことを──あの憧れのスクールアイドルμ'sが教えてくれたから。みんなは笑うけど、私は本当に真剣なの。あんな風にキラキラ光ってる大好きなμ'sにほんの少しでもいいから近づきたい。

ラブライブ!Official Web Site | 『ラブライブ!サンシャイン!!』グループ名募集特設ページ

主人公の高海千歌が語る、「μ'sへの憧れ」。馴染みのある感情だった。自分と同じようにμ'sが大好きな女の子が、憧れに向かって手を伸ばす。この事実に想いがこみ上げ、少しずつ彼女達のことを追うようになっていった。

 

 

 

「輝き」を追うものたち

プロジェクト始動から1年半後、テレビアニメ放映開始。1話「輝きたい!!」は、千歌が偶然μ'sのライブ映像を見かけるところから始まる。

普通な私の日常に突然訪れた、奇跡。
何かに夢中になりたくて、何かに全力になりたくて、脇目もふらずに走りたくて。でも、何をやっていいか分からなくて。
くすぶっていた私の全てを、吹き飛ばし、舞い降りた!

ラブライブ!サンシャイン!!  1期1話 輝きたい!!

こうしてμ'sの虜になった千歌は、スクールアイドル部を立ち上げるべく部員を募集し始める。しかし、簡単には集まらない。そんな帰り道、東京からやってきた高校生、桜内梨子と出会う。スクールアイドルを知らないと話す梨子に、千歌はμ'sへの憧れを語る。この時に出てきたのが、「普通星人」と「普通怪獣」の話だったのだ。

普通であることのもどかしさ、それでも輝きたいという気持ち。自分の感情にぴったり当てはまるテーマが提示されたことに驚いたが、驚いたのはそれだけではない。自分の予想以上に、μ'sの名前が頻繁に出現し、映像もしっかり流れるということだった。例えば、1話では「START:DASH!!」が千歌がμ'sを知ったきっかけの映像として用いられている。また、2話では千歌が「スノハレ(Snow halation)みたいな曲を作る」と発言していたり、梨子が「ユメノトビラ」を弾き語りしたりする場面がある。これらの要素もあり、私は「サンシャイン!!」の世界にどんどんのめり込んでいった。

「輝き」は千歌だけではなく、他の登場人物にも重要なキーワードとなっている。

長年続けてきたピアノが上達しなくなり、環境を変えるため東京から引っ越してきた梨子。スクールアイドルへの想いをキラキラな目で語る千歌を見て、かつてピアノを弾いていたときの感情を思い出す。

ピアノ弾いてると空飛んでるみたいなの!
自分がキラキラになるのっ、お星さまみたいに!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期2話 転校生をつかまえろ!

スクールアイドルへの憧れを抱きつつも、周りに気を遣って想いを胸に閉じ込めていたルビィ。彼女の背中を押すため、親友である花丸は一緒にスクールアイドル部へ体験入部することを決心する。

その胸の扉を思い切り開いてあげたいと、ずっと思っていた。
中に詰まっているいっぱいのを、世界の隅々まで照らせるようなその輝きを、大空に放ってあげたかった。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

一方、スクールアイドルを眩しげに眺めつつも、自分には向いていないと思っていた花丸。彼女の体験入部での様子を見て、ルビィも背中を押す。

練習の時も、屋上にいた時も、皆で話してる時も。花丸ちゃん、嬉しそうだった。それ見て思った、花丸ちゃん好きなんだって。ルビィと同じくらい好きなんだって!スクールアイドルが!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

「堕天使ヨハネ」と自称していたが、高校生にもなって通じないとその想いを封じようとする善子。なぜ堕天使だったのかという梨子の疑問に対して、幼馴染の花丸が以下のように語っている。

ずっと普通だったんだと思うんです。私達と同じで、あまり目立たなくて。そういう時、思いませんか?これが本当の自分なのかなあって。元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかって。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期5話 ヨハネ堕天

今の自分がもどかしくて、変わりたくて。そんな子たちがスクールアイドルを通して「輝き」に手を伸ばす物語が、「ラブライブ! "サンシャイン"!!」だったのだ。こうして集まった9人がAqours(アクア)となり、6話で決まった廃校の阻止とラブライブ!優勝を目指すことになる。

 

 

 

μ'sとスクールアイドルについての再発見

「輝き」とは何なのか。サンシャイン!!1期では「μ'sへの憧れ」を通してその答えを導き出している。そもそも、千歌はμ'sをはじめとするスクールアイドルのどこに魅力を感じているのだろうか。

 

μ'sについて、千歌は1話で以下のように述べている。

皆私と同じようなどこにでもいる普通の高校生なのに、キラキラしてた。それで思ったの。一生懸命練習して皆で心を一つにしてステージに立つと、こんなにもかっこよくて、感動できて、素敵になれるんだって!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期1話 輝きたい!!

「皆で心を一つにする」。この点については、μ's自身もそれを魅力だと捉えている。ラブライブ!2期10話、「μ's」。ラブライブ!東京地区最終予選にて、μ'sに敗北したA-RISE。A-RISEのリーダーであるツバサは、μ'sのリーダー穂乃果に質問をぶつける。「μ'sの原動力とは一体何なのか」。この答えを導くため、穂乃果は妹の雪穂に対してμ'sの魅力を尋ねる。「危なっかしい、頼りない、はらはらする。でも何か心配になっちゃうんだよね。」雪穂のこの回答に、音ノ木坂の生徒のみんなが書いてくれたラブライブ!優勝祈願の絵馬。これらを踏まえ、穂乃果は以下の答えを導き出していた。

一生懸命頑張って、それを皆が応援してくれて、一緒に成長していける。それが全てなんだよ。皆が同じ気持ちで頑張って、前に進んで、少しずつ夢を叶えていく。それがスクールアイドル!それが、μ'sなんだよ!

ラブライブ! 2期10話 μ's

結果、μ'sのキャッチフレーズは「みんなで叶える物語」となった。これは、プロジェクトラブライブ!そのもののキャッチフレーズでもある。千歌はまさに、「みんなで叶える物語」に魅力を感じたと考えられる。この点については、サンシャイン!!11話でも以下のように述べられている。

曜:千歌ちゃんにとって輝くという事は自分一人じゃなくて、『誰かと手を取り合い、皆で一緒に輝く事』なんだよね。

梨子:私や曜ちゃんや普通の皆が集まって、一人じゃとても作れない大きな輝きを作る。その輝きが、学校や聞いてる人に広がっていく、繋がっていく。

曜:それが、千歌ちゃんがやりたかった事。スクールアイドルの中に見つけた、輝きなんだ。

ラブライブ!サンシャイン!! 1期11話 友情ヨーソロー

 

また、5話で千歌は以下のようにも述べている。

μ'sがどうして伝説を作れたのか、どうしてスクールアイドルがそこまで繋がってきたのか、考えてみて分かったんだ。ステージの上で、自分の好きを迷わずに見せる事なんだよっ。お客さんにどう思われるかとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期5話 ヨハネ堕天

 「自分が一番好きな姿を見せる」。この言葉には、"スクールアイドル"の一番の利点が込められていると私は考えている。ラブライブ!1期4話、1年生加入回。スクールアイドルのことは大好きだが、自分には向いていないと俯く花陽。そんな花陽に、自分達こそ性格的には向いていないと答える穂乃果と海未。それでも、と言葉を濁す花陽に、ことりは優しく声を掛ける。

プロのアイドルなら、私達はすぐに失格。でも、スクールアイドルなら「やりたい」って気持ちを持って、自分達の目標を持ってやってみる事はできる!

ラブライブ! 1期4話 まきりんぱな

スクールアイドルの利点、それは、「やりたい」や「好き」という気持ちを最優先できること。プロのアイドルの場合、そのような気持ちだけではどうしても務まらない。様々な制約があり、仕事としての責任も生じてくる。もちろんそれらを乗り越えた上でアイドルを務める人々は素晴らしく、尊ぶべき存在である(この点については3次元のアイドルを推し始めてからより深く感じている)。しかしそれとは別に、自分の「やりたい」や「好き」を前面に押し出す存在があってもいいのではないか。このような思いで、"スクールアイドル"が生まれたのではないかと私は考えている。"アイドル"という言葉については、様々な人々が日々議論を交わしており、その定義は人によって違う。このため"スクールアイドル"にも様々な意見があるとは思うが、私はこれを固有の存在として好意的に受け止めている。

……少々話が脱線したが、これが私の考察する「高海千歌の考えるスクールアイドルの魅力」である。先程、この魅力を示している図としてμ'sの1年生加入回を例に挙げた。サンシャイン!!でそれが色濃く描写されているのも、1年生加入回である。冒頭に示した5話は善子加入回であるし、4話のルビィ・花丸加入回では千歌が以下のように声を掛けている。

一番大切なのはできるかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期4話 ふたりのキモチ

 

このように、千歌の考えるμ's・スクールアイドルの魅力を考察することで、改めてそれらの魅力を再発見することができた。私はμ's・Aqours共に1年生推しなのだが、「好き」が原動力である点、そんな彼女たちを応援することで一緒に夢を叶えていける点が大好きなのだと改めて認識することになった。

 

 

 

"Aqoursだけ"の「輝き」

μ'sへの憧れを抱きつつ、廃校を阻止すべく活動を続けていた千歌たち。しかし、ラブライブ!予備予選を突破してもなお、学校説明会への希望者数は0人。μ'sは既にその頃には廃校を阻止できていたと知った千歌は、焦りを感じる。μ'sを知った当初は「自分とそんなに変わらない」「普通の人達が頑張ってキラキラ輝いている」と認識していた千歌だったが、自分たちとは決定的に違う点があるのではないかと考え始める。μ'sはどうして廃校を阻止できたのか、何が凄かったのか。それを確かめるべく、千歌たちAqoursは東京へと向かう。

μ'sがスクールアイドルとして時を過ごし、廃校を阻止した、音ノ木坂学院。校舎の前で、Aqoursはひとりの少女と出会う。「μ'sは学校に何も残していかなかった」と話す少女に、千歌はその答えを得た。帰路の浜辺で、彼女は語り出す。

μ'sの凄いところって、きっと何も無い場所を思いっきり走った事だと思う。皆の夢を叶えるために。
μ'sみたいに輝くって事は、μ'sの背中を追いかける事じゃない。自由に走るって事なんじゃないかな?全身全霊、何にも捕らわれずに、自分達の気持ちに従って!

ラブライブ!サンシャイン!! 1期12話 はばたきのとき

仲間だけを見て、目の前の景色を見て、真っ直ぐに走る。それが輝く事だと確信した千歌は、μ'sの姿を追い求めることを辞める(実際、この回を機にμ'sの描写がぐっと少なくなっている)。単に「輝き」ではなく「自分たちだけの輝き」を見つけるため、Aqoursは走り出す。我々へのひとつの問いかけと共に。

「君のこころは、輝いてるかい?」

youtu.be

 

 

──ここまでが、ラブライブ!サンシャイン!!1期の内容である。μ'sが大好きで、だからこそ、それ以外を認めたくない。そんな気持ちも掬い上げた上で、次の可能性を上手く示した物語だったな、と思った。少なくとも私は、憧れの象徴としてのμ'sの描写が丁寧であったと思うし、千歌ちゃんに深く感情移入するきっかけにもなった。また、彼女たちがそれに頼らず進んでいく決心をすることで、Aqoursそのものをしっかり見つめられるようにもなった。そして何よりも、「普通星人」という言葉が胸に深く突き刺さった。2期では、そんな「普通星人」に対する"ある言葉"が救いとなっている。後編では、その言葉を中心に「Aqoursだけの輝き」を探っていく。