スウィート・アラカルト

食後は別腹クレープ!

泡になれなかった人魚のはなし

とつぜん突き落とされたのは、冬のにおいが漂うつめたい海でした。

 

「海に飛び込めば泡になって消えてしまう」そう教えられていたはずなのに、いき苦しい呼吸は続いていて。幸せな日々を送りながらも、終わってしまう「いつか」を思い、懐に忍ばせていたナイフ。今すぐこの命を絶ちたいと探ってみても、両手は重い海水を掻き回すだけ。両脚が元のかたちに戻ることもなく、為す術のないわたしは、ただただ深く沈んでいきました。

 

そしてたどり着いた海の底。他のことは何も考えたくなくて、同じ記憶を何度も繰り返して。平気だとは決して思われたくなくて、泣き言を吐いてばかりの日々でした。でも、そんなわたしにいろんな人が手を差し伸べてくれて。手を引かれてたどり着いた場所では、色とりどりの景色が見られました。自分が思っていた以上に、この世界は素敵なものであふれていたのです。それと同時に、心にぽっかりと空いた穴は、そう簡単に埋まるものではないということにも気づきました。これは決して後ろ向きな気づきではありません。さまざまなものに触れたからこそ、大切なもののかけがえのなさを知ることができたのです。ひとりで縮こまっているだけではわからなかったことを、たくさん知ることができました。

 

そしてわたしは今、海の底に落ちてきた綺麗な言葉の欠片を拾い集めています。いつか帰ってきたときに、とびきりうつくしい冠を捧げられるように。

 

21歳のあなたに会うことは叶わなかったけれど、22歳のあなたには会えますように。

松島聡さん、お誕生日おめでとうございます。